前回の原稿では他社に先駆けてプラン提案を行い、顧客と一定の方向性を共有することの重要性について書いた。今回はそのためのプランを軸にしたコミュニケーションの手法についてまとめてみる。
前回と前々回で触れたように、注文住宅の多くの顧客はプランを総合的に理解する知見は持たない。そのため、プラン提案時のプロ側とのやり取りは顧客が理解しやすい「間取り」にフォーカスされる。
間取りが理解しやすいのは、過去の生活経験から理解できる要素がある程度含まれているからだ。逆に言うと顧客が理解できる内容は過去の生活経験に限定される。
注文住宅の顧客の多くを占めるのは一次取得層と言われる30歳前後の子育て世帯。彼らは年齢が若く、人生経験が浅い。そのため生活経験に関して個人差がそれほどない。
子育て世帯の間取りに関連して重視するポイントは共通性が高い。それが「家事楽」だ。子育て世帯は共働きが多いこともあり、家事の負担を日常的に感じている。それを緩和する提案に対しては高く評価する傾向が強い。
家事はいくつかの作業に分類される。大きくは「掃除」「炊事」「洗濯」だ。プラン提案時にはこの3点にフォーカスして間取りを組み立て、それぞれの工夫について重点的に説明してコミュニケーションを深めていくとよい。
掃除に関しては、滞在時間の長いスペースに収納を設けることが基本だ。すぐに仕舞える場所があることで散らかりにくくなる。
もう1つは来客などに散らかった場所を見られないようにする配慮。玄関からリビングの動線上から散らかりやすいスペースが見えないように配置する。同様にカーテンなどで子供の遊ぶ場所などをさっと隠せるような配慮も効果的だ。
炊事に関しては、まずは日々の買い物を省力化するためのまとめ買いへの配慮だ。駐車場からキッチンまでの動線を最短にまとめ、雨の日に濡れないで移動できるようにする。
まとめ買いした食材などを保存するための収納(パントリー)の設置も重要だ。食洗機も必須だ。下げ膳した食器類や調理後の鍋などを取りあえず入れて置くことができるので、洗浄前の食器類などが目に付かずに済む。
そして洗濯。これが家事楽対応の最大のポイントとなる。洗濯は作業のなかに愉しみの要素が非常に少なく、作業を完了させるのに多段階の過程を経るからだ。間取りにおける家事楽提案の成否は、洗濯の効率化に掛かっているといってもよい。洗濯の手間とストレスを緩和する具体的な手法については次回に譲りたい。