見込み客の間取りに関する要望は実体験というよりもInstagramをはじめとしたSNSの影響が多い。なかでも目立つのが家事楽に関することだ。多くの人見込み客が要望として口に出すことが多いのが、回遊動線だ。家のなかに行き止まりがなく、ぐるぐる回れると効率的に移動できるというのが「神話」になっている。
実際は炊事や洗濯などの家事の際に家のさまざまなスペースに移動するようなことはほとんどないのだが、「回遊できない間取り=駄目な間取り」というのがなかば常識となっているので、プラン提案の際に満たすべき最優先項目の1つになっている。
玄関から洗濯室(サニタリー)とキッチンの双方に動線があり、回遊できるようになった間取り。
家事楽志向の見込み客に支持されるプラン。
では回遊動線はどのスペースとどのスペースを結ぶことが求められるのだろうか。
洗濯室(洗面脱衣室)を中心に考えると分かりやすい。まずは洗濯室と玄関とのつながりだ。この動線を求めるのは小中学生の子どもがいる家庭だ。部活動やスポーツクラブなどから家に帰ってきたときに、玄関から洗濯室(洗面脱衣質)にアプローチできると、子どもはLDKなどの居室に入る前に汚れた服を脱いで手を洗うことができるので、LDKなどの居室が汚れにくくなる。
玄関とキッチン、洗濯室が同一線上にある間取り。
玄関側に洗濯室をもってきたほうが家事楽志向には合致している。
洗濯室と玄関の動線に加え、洗濯室をキッチンの近くに配置することも要望されやすい。これにより炊事と洗濯を同時にこなしやすくなるという考え方だ。
実際には洗濯機の自動化が進んでおり、また洗濯自体は洗濯室とファミリークローゼットの2室で完結する。そのためキッチンで炊事をしながら洗濯室に何度も足を運ぶようなことにはなりにくい。そのため水回りとキッチンは離れていても家事の効率には影響がない。とはいえSNSの影響は非常に大きいので、初回提案で上記のような考え方に基づき洗濯室とキッチンの動線に対して配慮があまりない案を提出するのは好ましくない。
初回提案はコミュニケーションを深める「ネタフリ」と考え、プランが破綻しない範囲で上述した要望に配慮して、洗濯室と玄関、洗濯室とキッチンを結ぶような配置にするのが上策だ。
2つの動線を両立させるように考えることで、自然とそれらのスペースをぐるぐると回遊できるプランになる。当然、敷地形状やそのほかの要望によっては効率の悪いプランになる場合もあるが、その場合、セカンドプラン以降に修正していく。
玄関ホールで2方向に動線を分けることで、玄関と洗濯室、洗濯室とキッチンを近接させつつ回遊性をもたせている。